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My Opinion 

2003.12.25 更新

今、私は何を考えているか。今後の私、そして社労士はどう進むべきか
そんなことに関して私見を述べたいと思います。
皆さんからのご意見お待ちしております。


・社会保険労務士が法律家として生きる道は?

私は常々社会保険労務士が法律家のはしくれとして他に負けないものは何だろうかと自問していました。そしてやはり労働基準法だろうとの思いに至っています。私は社会保険労務士として労基法の理解を更に深め、”労働について、労基法については社会保険労務士に聞け”という社会的合意が形成されるように努力したいと思っています。労基法のみならず民法等周辺法令を身に付けた上で、実務家として日常業務について適切なアドバイスをし、経営者と従業員の関係が円滑になるよう、トラブルに発展しないよう、弁護士さんとは違った予防法的アプローチによってお役に立っていきたいと考えています。


・就業規則によるリスクマネジメントを考える

就業規則の重要性が言われているのは今に始まったことではありませんが、どうも今一つ深刻味がなく、依然として安易に作られているものが少なくないように思えます。何もないときはそれでもいいのでしょうが、雇用の流動化がますます進むことは疑う余地もなく、以前より多くの従業員が出入りするようになるでしょう。そうするともしトラブルが起きたときに就業規則に何と規定してあるのかが非常に大きな問題となってきます。せっかく会社が独自に定められるのだから、万が一の時にダメージを受けないよう、法的に義務づけられている部分はもちろん、それ以外の部分でももっと積極的にリスク管理という視点を持って、意味のある規定を作っておくべきではないでしょうか。今後は就業規則を会社のリスク管理という視点から見直す需要が更に強まるのではないか。そして我々はこの観点から事業主に対して積極的に働きかけ、コンサルティングをすべきなのではないかと考えています。
そうは言ってもリスクは予想しきれないのだからその考えは危険だと言う方もいるでしょう。実際、何かあると怖いから従業員の目の届かないところへ隠している会社も多いと聞きます。そうアドバイスする社労士もいるようです。しかしそのような後ろ向きの考え方は社労士のレベルを自らおとしめるものだと私は思うのです。きっちり表に出すことを前提に、考えられる限りのリスクを避ける、レベルの高い仕事をしてこそプロと言えるのではないのでしょうか。
まだまだ私も完ぺきとはほど遠いですが、少しずつ近づくべく日々精進したいと思っています。私の考え方はリスクが高すぎるでしょうか?皆さんからの率直なご意見をいただければうれしいかぎりです。

自分のリスクヘッジも考えなきゃいけないかな。

就業規則があったから・なかったからこうなった
こんなトラブルになった・ならなかった...etc
そんな事例がありましたら是非教えてください。


・司法試験法改正を考える 

今国会で、司法試験法が改正になった。何故私がこんな話をするかというと、この法改正で労働法が司法試験の試験科目(選択科目)からはずれたからである。学生時代に労働法をまじめに勉強している人はごく限られているし、試験に出ないとなれば、司法試験の受験生が勉強することはあり得ないだろう。ということは、今後労働法に弱い、というより知らない弁護士が増えてくることは間違いのないことだろう。このことは何を意味するか。それは我々社会保険労務士がこの分野で第一人者になる大きなチャンスがやってきたということである。
以前は、労働問題というと、会社対組合での問題、つまり集団的労働関係による労使紛争が主であった。この分野は我々には「労働争議不介入の原則」なるものの存在により、容易に踏み込めない領域であった。しかし、近年の組合組織率の低下や、そもそも中小零細企業には組合が存在しないところが大半であるという状況の中で、労使間のトラブルは、賃金、労働時間、退職、解雇といったいわゆる個別的労働関係に基づくものに主役を明け渡しつつある。この分野については我々は日常的に相談を受けている部分であり、十分力を発揮できる土壌ができている。
以上述べた2点、すなわち

1.司法試験改革により、労働法を知らない弁護士が増える。
2.労働問題の中心が個別的労働関係に移行している。

ということから言えるのは、まさにこれからは我々社会保険労務士こそがこの労働法の分野で指導的立場をとり、労働のプロとしての地位を確保するための大きなチャンスであり、我々は自覚を持って専門性を磨き、時代と社会の要請に応えていかなければならないと思うのである。

う〜ん、なんか活動家の演説のようになってしまったな...。


・助成金は魔法の杖?(99.9.6) 

HPをご覧戴ければお分かりの通り、私は日頃より助成金をお客様にお勧めしています。また、雑誌等にも助成金をPRする記事を載せています。ただ、私は何が何でも助成金を使いましょうと言っている訳ではありません。場合によっては使わないほうがいい場合も多々あります。変な話ですが、助成金の話をしに行ってても、状況を聞いて「使わないほうがいいですね。」なんて言って帰ってきてしまうこともよくあるのです。

私は、助成金を利用する場合には特に次の2点について注意が必要だと考えています。まず1つは助成金受給の要件として会社の制度の変更を求められたとき(助成金の要件としては割と多い)に、将来的なリスクをよく考えずに変更を行ってしまい、助成金をもらった後になって慌てる場合があることです。例えば60歳定年を65歳まで継続雇用する制度を作って助成金をもらったはいいが、10年後に会社が高齢者であふれてしまった。景気も予想より悪く、そこで慌てて解雇を連発する。従業員とすれば雇用が伸びたと喜んだのも束の間、突然どんどん解雇されだせば、すっかりやる気を無くしてしまうでしょう。ですから制度改変を伴う助成金を利用する場合には、変更による将来的なリスクについて充分吟味した上で決断することが重要だと思います。もう1点気を付けなければならないことは、助成金もらいたさからその企業のあるべき姿を無視し、助成金に会社を合わせてしまいがちだということです。例えば当初の予定が狂い、そのままでは助成金を受給できない場合などに、つい助成金の受給が優先され、企業のあるべき姿を崩して助成金をもらいに行ってしまうことがあります。結果として従業員は会社の都合により振り回され、モラルが低下していきます。度を過ぎると給与の水増しや架空雇用など、不正受給にまで発展する恐れがあります。原因は助成金の利用が手段ではなく目的化してしまうからなのですが、一見ちょっと考えれば分かりそうなことが、助成金の受給で頭が一杯になると、知らないうちに見えなくなってくるのが怖いところなのです。我々がお客様の受給のお手伝いをするときでも、あるいは我々が自ら法人を設立して利用しようとする場合でさえも、気を付けないといつのまにかこの罠にはまる可能性が大いににあるのです。ですから助成金のために無理をしていないか、助成金がなくても果たして同じことをしていたか等、常に自らを振り返り、チェックし続けることが大事なことだと思うのです。

日経連タイムズの連載の最後でも書いたのですが、助成金の利用は、たまたまこれからやろうとしていることが助成金に合致する場合、何か変えるとしても会社の実状から無理なくできる場合、あるいは経営計画段階から助成金の利用を見込んで計画を組める場合等に限って積極的に活用すべきだと思います。助成金はあくまでもコスト削減の手段であり、決して目的化してはいけないし、またいつのまにか目的にすりかわらないように注意しなければいけないのです。助成金は何でも解決してしまう魔法の杖ではないのです。それどころか逆にその魔力に惑わされないように細心の注意を払わなければいけないと私は感じています。

自分への戒めも込めて書きました。


・異士業連携から同士業連携へ?(2000.5.3) 

私は以前から、顧客に対するサービス向上のためには異なった分野の専門家である異士業資格者やコンサルタント等との連携が必要であると考えておりました。実はこのHPも当初は士業全体での情報交換を目指していました。今でもその考えが変わっているわけではなく、税理士、弁護士、司法書士、行政書士etc.その他各種のコンサルタント等周辺の資格士業者等といい形で連携して総合的なサービスを提供していけたら素晴らしいだろうなと思っております。

ただ、社会保険労務士の仕事自体がどんどん専門特化せざるを得ない状況になりつつある中で、私が最近感じていることは、これからは我々社会保険労務士がそれぞれ専門性を出し合って連携し、1顧客に対し複数でサービスをしていく形が求められてくるのではないかということです。社会保険労務士の扱う、人に関する分野という限られた範囲であっても、もう1人で全てについて満足のいくサービスを提供しきれないのではないか、1人が全てについてサービスを提供しても顧客の求めているレベルには応えきれないのでは、と感じはじめているのです。特に情報の量やスピードが幾何級数的に増す中で、1人は1つないし2つ位の専門性を深めていくだけで精いっぱいであると思います。そうであれば社会保険労務士同士の中で得意な専門分野を持ちより、共同で1顧客に対しサービスを提供していく、社会保険労務士という共通したベース、価値観を共有しながら、自分の強みを提供しあって人に関するワンストップサービスを目指す、というのもこれからは十二分にあり得る方向性ではないかと思うのです。

こんなことは以前からやっている方がいらっしゃるかもしれません。ただ最近しばしば異業種、異士業の連携という話が言われますが、それ以前に足元の同業者同士でも同じような連携ができるのではないか、というよりそうしなくてはこれから価値ある仕事をしようとする場合に対応できないのではないかと。これからの社会保険労務士の仕事の流れとしてのひとつになるのでは、と感じたものですからちょっと書いてみました。


・英語と社会保険労務士(2000.7.5) 

最近、数日の間に2度も、お客様のところで「英語はできますか?」と聞かれました。当然私は旅行英語以上のものはできるわけもなく、また英語ができなくても結局じゃ仕事に支障なかったのですが、もし英語がぺラぺラだったら・・・と思ったのです。今、開業している社会保険労務士の中で英語を仕事で使うのに支障のないレベルまで使える人が何人いるでしょうか。おそらく数えるほどではという気がします。もし、社会保険労務士としてのレベルはほぼ同じで、英語力のある人とない人がいた場合、外国の経営者あるいは外資系の企業はどちらに仕事を依頼するかと考えてみると、社会保険労務士で英語が出来るというのはかなりのアドバンテージになるのでは、と思うのです。実際、最近の外資系企業の日本進出は目覚ましいものがあり、また外国人が経営者である企業も都心部を中心に相当数存在しているはずです。これらの企業では経営者あるいは親会社の企業文化・労働慣行と日本の企業文化・労働慣行の違いにより、就業規則ひとつを策定するにしても色々と困難な問題が出てきます。そこでは経営者・親会社の考えている規則のイメージや内容を日本の法律に適合させるという作業の他に、その適合させた規則を経営者・親会社に説得し納得してもらうという過程が必要となります。というかそれがなければ最終的に完成とならないのです。この部分は社内でしてもらうこともできますが、社会保険労務士ができればそれに越したことはないと思うのです。

今、労働法に関する高い知識と実務能力があり、かつビジネスで使える英語力があれば、社会保険労務士としては十分差別化できる、特に外資系、外国人経営者の会社に対しては有利に営業が進められるような気がします。特にこの市場は社会保険労務士がまだあまり踏み入れてない領域だと思いますので、仕事はかんり取れるのではないでしょうか。

ある日、喫茶店で営業マンらしき人達の話し声が耳に入りました。「これからの営業マンは英語は必須でしょう!」とさも当然のように話していました。恐らく一般的なビジネスの世界ではすでに当然のことなのでしょう。社会保険労務士は今まで英語など無縁でも生きてこられた特殊な業界だったのかもしれません。だからこそ、今英語が使えるというだけで差別化ができるのです。得意な方はちょっと注目してもいいのではないでしょうか。


・ITベンチャー、SOHOと労務管理(2001.1.25) 

これは私が昨年から考えていたテーマで、いわゆるIT系のベンチャーや、SOHOといわれる業態の事業所に対して、社会保険労務士はどのような商品を提供できるのか。もっと簡単に言えば仕事になるネタは何かということをずっと考えていました。IT系のベンチャーやSOHOなどでは組織や労働条件など未整備な企業が多く、また社員の人数も少ない傾向にあり、従来の社会保険労務士の手法ではなかなか仕事になりづらいと考えられていたと思います。しかし時代は確実にこれらの企業の台頭を示しており、ここに必ず仕事のネタが隠されている、というか仕事にしていくべきだと以前から考えてました。ただなかなか具体的なイメージがわかずに月日を過ごしておりました。しかし先日、ある方の文章を読んで、徐々に具体的なイメージが湧いてきました。

クライアントが人を使おうと考えた場合には、まず次の3点について自社に最適な形態を検討し、それぞれのメリット・デメリットを説明した上で選択してもらうようにします。

  • 就業形態(事務所勤務、在宅、外回り、フレックスタイム、裁量労働等)
  • 契約形態(雇用、請負、派遣等)
  • 組織形態(プロジェクト型、ネットワーク型、フラット型等)

そしてこれらの形態が選択できたならば、次にその選択した形態で運営していくために必要な事項について検討をしていきます。

  • 法律的問題のクリア(労働条件や、契約形態に法的不備がないか)
  • リスクヘッジのための制度整備(就業規則等の諸規定、情報管理制度、各種契約書等)
  • コストダウンのための戦略的助成金活用
  • 人材育成のための制度整備(評価、報酬制度、研修制度)
  • 福利厚生の整備
  • 必要な情報インフラの整備

これらの各項目ごとに各企業の実状にあわせて必要なものを選択・提案していき、更に細部をつめていくことによって、小規模の企業でも社会保険労務士として価値あるサービスを提供できるのではないかと思うのです。ひとりで全ての部分を提供できないときは、それぞれの専門家と連携して問題解決にあたることも考えらるでしょう。

これからのベンチャー、SOHOはインターネットを利用することによって、大企業に対抗しうる土壌ができてきました。その上に社会保険労務士が上記のような提案をすることによって、小規模企業ならではのフレキシブルで低コストな組織を作り上げることが出来れば、経営者にとっても労働力を提供する側にとっても納得のいく働き方ができ、お互いに幸せという状態を作り出せるのではないかと思うのです。確かに現状の労働法にいかに適合させるか等、実際の問題解決にはいくつも乗り越えなければならない壁がありますが、トライするだけの価値はあると思うのです。


・労務管理におけるコンプライアンス(2002.6.17) 

最近耳にすることが多くなってきたコンプライアンスという言葉。日本語にすると「法令遵守(する体制)」ということのようですが、通常は経営全般について語られるこの言葉が、今後労務管理の世界でも重要になってくるとは考えられないでしょうか。経営には色々な側面がありますが、この「法令遵守」という精神が一番ないがしろにされてきたのはもしかしたら労務管理の分野であるような気がしています。

最近相次いでいる一連の企業の不正行為事件は、違法行為を前提とした経営がいまや企業の存続をも揺るがす程のリスクとなっていることを物語っています。これは労務管理の分野でも無関係ではありません。労働者は企業の一員であり同時に一顧客でもあるのです。違法状態を放置している企業はユーザーからそっぽを向かれ、一度崩れた企業イメージは取り返しのつかないダメージとなることもありえるのです。

また、労使関係が個別的な性格を強めてきており、さらに企業が一生涯の雇用を保障しなくなってきた背景の中で、今、労働者は企業に対し、約束としての労働契約内容、適法な労働条件きちんとを守ることを強く要求するようになってきています。労働者が将来の雇用保障と引き換えに多少の違法状態を甘受していた時代はすでに終わろうとしているのです。

確かに法律が古いということから、現実と適合させることが困難な場合も多々あります。しかしだからといって法律を守らなくて良いという理由にはなりませんし、何よりも経営者の「法律なんか守っていたらやってられない」という意識がコンプライアンスを阻んでいる一番大きな要因のような気がします。労務管理においては違法状態を放置しておくことによるリスクに対して認識があまりに低いのは何故なのでしょう。万が一トラブルが発生した場合に経営に与えるコスト、ダメージは労務管理の世界でも決して小さくありません。

ですから労務管理の世界でも、そろそろ違法状態を前提とした管理から、適法状態を前提とした管理に意識を切り替えていく必要があります。行政も法律を守るための色々な枠組みを提示し始めており、違法状態の是正については今後より厳しく取り締まることが予想されます。我々社会保険労務士もどこまでが適法であるのかについてこれまで以上に精査して、法令遵守を前提とした労務管理の指導を行っていかなくてはならないでしょう。

法令を遵守し、労働者に信頼される企業が今求められています。


・健康という視点からの労務管理(2003.9.15) 

このところセミナーなどで、「健康というキーワードがこれからの労務管理で重要になってきますよ」という話をよくしています。従来、特に中小企業においては、健康管理というものにはさほど重きをおいてなかったように思います。会社によっては定期健康診断すらきちんと受診させていないところもあるようです。しかし、これからは従業員の健康管理をおざなりにすることは、会社にとってとてもリスクが大きいということを認識しなくてはなりません。

私がそのように主張するその背景には、ここ数年で相次いで発表された労災の新認定基準があります。平成11年に精神障害に関し、そして平成13年には脳・心臓疾患に関する新たな認定基準が発表されました。この2つの基準はいわゆる過労死・過労自殺に適用される基準です。そして特徴的なのはいずれの認定においても、長期間の過重な労働、もっといってしまえば恒常的な長時間労働がその重要な要因のひとつとされたことです。従来はごく直前の過重労働のみで判断されていたものが、直前6ヶ月という長期で判断されることになったため、万が一過労死・過労自殺が発生してしまった時に、そこに恒常的な長時間労働が存在していた場合には、その長時間労働が原因とされるのです。つまり恒常的な長時間労働を放置していた労務管理の不備が事業主の責任として問われてくるということです。

この2つの新しい認定基準を受けて、厚生労働省は平成14年に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」という通達を発表し、更に平成15年にはサービス残業解消に向けての指針を発表、長時間労働、深夜労働をできるだけなくそうと指導に力を入れてきています。従来の労基署の指導は、単に法定労働時間の遵守や残業代の未払いなどを掲げて行っていましたが、これからは過労死・過労自殺者を出さないということを大きな目的に掲げて指導するでしょう。やることは今までと同じく割増賃金の不払いなどであっても、背景には、放っておくと死者が出るぞという危機感がありますので、当然指導は今までより厳しくなってくるものと予想されます。

事業主にとっても、健康管理や恒常的な長時間労働について適切な対応をしておかないと、今まで以上に厳しい行政の指導に合う可能性が増すでしょう。更にもっと怖いのは、万が一でも事故(過労死・過労自殺)がおきてしまった場合、労災だけでなく、安全配慮義務違反として民事賠償の責任も問われてくる可能性が大きいということです。労災の基準に該当する長時間労働があった場合には、もはや民事訴訟で安全配慮義務の履行を主張しても到底認められないでしょう。健康管理についても、罰則規定のある法律だけ遵守していても、このような事態になったときには義務が履行されているとはみなされず、努力義務規定や指針、さらには通達などで指摘されていることをやっておかなかったということで安全配慮義務の不履行が問われてしまいます。

つまり、今後は長時間労働を放置し、健康管理を徹底していない企業は、大変なリスクを負いながら事業をしていくことになるのです。安全配慮義務を履行したと言えるためには、事故の予見可能性のある要素を徹底的に排除していく姿勢が求められます。そこまでのコストは到底かけられないと考えるか、万が一事故が起こった際のリスクを重視するかは考え方次第ですが、中小企業にとっては一度の事故で会社がふっとびかねないという認識は持っておく必要があるのではないかと思うのです。

 


・脱・正社員化の落とし穴(2003.11.4) 

もう2年ほど前からセミナーで「柔軟な雇用形態と勤務形態」といった話をしてきましたが、最近では労働経済白書でも「多様な働き方」という言葉がサブタイトルになるほど当たり前のように使われるようになりました。終身雇用保障の崩壊、人件費コストによる経営の圧迫という背景などから、各企業も従来の正社員フルタイム勤務一辺倒から、様々な形態を模索するようになってきました。また社会保険のパートへの適用拡大などの動きもパートの細分化を促進する要因となりそうで、今後も多様な雇用形態が並立する状態が続きそうです。

しかし私が懸念するのは、あまりにもこの選択肢を安易に選びすぎていないかということです。「正社員じゃコストがかかりすぎるからパートにしよう」「派遣なら社会保険に入れなくてもいいし」「社員でなく請負にして個人事業主扱いにすれば雇用責任がなくなる」などと外面のメリット(にみえる部分)のみ目が行って、導入するにあたって気をつけなければいけないことが全く見えていないケースが多く見受けられます。

従来の正社員とパートだけというくらいであれば、さほど問題はなかったのですが、派遣や請負など、直接雇用でない場合には法律で色々と規定されていますので、きちんとした法律知識がないと、違法な使用形態になる可能性が高くなります。また雇用契約とはいえパートタイマーも多様化していますし、契約社員等も含め、有期雇用契約者に対する法的な規定もしっかりおさえておかないと、間違った方法で雇用していることに気づかないといった事態にもなりかねません。

一番怖いのは、使っている側は労働者でないと考えていたのに、労働者とみなされてしまって、労働法から社会保険まですべて適用対象となってしまい、突然大きなコストがふりかかってくることです。また事故がおきたときの労災、安全配慮義務など、結局雇用労働者と変わらない責任を追う可能性は大いにあります。特に社内で請負事業者を使っている場合には要注意です。よほど注意深く労働者性を薄める工夫をしておかないと、万が一事故となった場合に労働者とみなされ、コスト削減したつもりが結局高い代償を払わされてしまった、なんて笑えない結末になりかねません。

様々な雇用形態、使用形態には、それぞれに対応する法律があって、適法に使う条件は皆違います。これらをひとつひとつきちんと把握した上で、メリットデメリットを勘案してから、導入していただきたいと思うのです。安易に導入し、知らないばかりにとんでもない違法状態を作ってしまったり、余計大きなコストが降りかかってくる、そんなことのないように専門家のアドバイスなど受けながら、自社にとって最適な選択肢をチョイスしていただきたいと思います。

色んな形態で働きたい、色んなバックグラウンドを持った労働者がいて、企業は自社のニーズに応じた働き方の選択肢を提供する。そこに企業と労働者のWin-Winの関係ができる。そんな形を是非実現したいものです。


・就業規則と労働契約の役割再考(2003.12.20) New

最近、就業規則をもう一度見直そうという気になっている。そしてその過程で、就業規則と労働契約の役割というものを今の時代に照らして考え直してみたいと思っているのだ。

そもそも何故就業規則を制定するのか。それは特に人数の多い企業において、画一的な労働条件を定めるとき、いちいち労働契約に書くより就業規則で定めたほうが効率がいいからである。本来、一人一人の労働条件は労働契約によって定められるべきだが、皆ほとんど同じ条件ならば、就業規則をひとつ作り、それが有効に適用されれば、就業規則の内容が労働契約の一部となる。従来は多数の労働者を同一の条件で雇用するという形態が一般的であったため、就業規則を充実させることはほぼ常識的な考え方となっていったのではないだろうか。

しかし、時代は変わり、各人の雇用形態や労働条件は多様化してきた。従来に比べて各人に共通する労働条件の項目は少なくなってきている。そのような流れの中での就業規則の内容は、どちらかというとスリム化の傾向を帯びてくるのではないだろうか。そして労働条件を定める基本である労働契約の中で、画一的に決めることのできない各人ごとの労働条件が定められるようになってくるだろう。そうすると、今後は労働契約の内容がどうなっているか、ということが重要になってきて、相対的に労働契約書の重要性が増し、労働条件を定める上での主役の座が就業規則から労働契約に移ってくるとは考えられないだろうか。

もちろん、規模の大きな企業においてはまだまだ就業規則の果たす役割は大きいだろう。しかし中小零細企業やベンチャー企業などにおいては、大企業の真似をして巷にあふれている雛型をただ写すだけでは、もはやほとんど役に立たなくなるような気がする。特に法律的に作成義務のない10名未満の企業では、行政がいくら少ない人数でも就業規則を作りましょうと言っても、本当に労働条件を画一的に定めるニーズがなければ、わざわざ作る必要はない、と言ってしまってもいいような気がする。

ただし、その場合気をつけなければならないのは、就業規則の持つ、リスクマネジメントの側面である。つまり企業において懲戒等なんらかの処分を行おうとする際に、一般的には就業規則に該当事項が定めていなければ、その行為の有効性はかなり認められにくい。なぜなら企業において労働者を罰するという行為は、労働契約から当然に認められるものでなく、どこかに定めがあって、それに対して当事者の合意がなければならないからだ。そして通常は就業規則に根拠規定を置くことによって、その合意が認められるのであるが、その就業規則がないのであるから、懲戒すること自体ができないことになる。

従って、就業規則を定めない場合には、より労働契約の内容が重要になってくる。つまり従来の1枚ペラペラの労働契約書では必要事項を網羅できないので、懲戒事由等も含めて、より精緻な労働契約書の作成が求められてくる。やはり労働条件の決定は労働契約本来のところにその主役の座が戻ってきていると言える。

就業規則が肥大化してくると、今の環境変化のスピードに臨機応変についていきにくい。だから就業規則はなるべくスリム化し、個々の労働契約でその変化に臨機応変に対応していく、そんな方向もひとつの選択肢として考えていい時代になった気がする。もちろんこれだけがすべてなく、あくまでも選択肢のひとつであるといことを強調したい。ただその選択肢を現実的に考えもいい頃なのかなとは思う。

 


 

ご意見などお待ちしてます。

 


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